京都北山に 雪月花を楽しむ
東海道の西の起点である三条大橋から北の方角を遠く望めば、鴨川の
遥か向うには屏風のようになだらかな山並みが広がっているのが見え
る。あの山並みの向うには、一体どのような景色が広がっているのだ
ろうか、いつか行ってみたい、見てみたいと思わずにはいられない。
そんな気持ちを胸に抱き、北山を彷徨したのは はるか昔のことだ。
憧憬の地 北山
北山は京都市民にとってなじみ深い山である。標高千メートルに満たない
山々が日本海まで連なり、高原のような台地を形作っている。とても地味
な山域ではあるが、古来より日本海側の文化と太平洋側の文化を橋渡しし
た街道がいまに残っており、山城に都がおかれる前から出雲地方との交通
が開けていたような地名(出雲路)や社(出雲井於神社)が見られる。
北山の峠や谷、鄙びた集落を歩いて感ずることは、かつては日本のどこで
でも見られた景色がまだ残っているということだ。
春の芽吹きのころ、新緑に萌える峠や花が咲き乱れる谷間を歩き、また秋
の終りのころに葉を落とした峠道や冷たい水の流れる谷を歩いていると、
ふと思うことがある。それは京都の社寺に見られる庭園、あるいは民家の
庭などは、北山をモデルにして作庭したものではないだろうか、というこ
とだ。地味に美しい北山の風景は、歌に詠まれたと信じたい、いつまでも
この景色を後世に伝えたいものだ。
六月に入り少し遠くまで歩いてみた。鴨の河原では沢山の家族連れが
遊んでいた。ようやく いつもの夏がかえってきた気がする。