曼殊院門跡を訪ねたのは久しぶりのことである。この寺院を訪ねる楽しみの一つは、
何よりも江戸時代初期に建てられた書院造りの建物にある。とりわけ廊下の造りの
見事さには ため息がでる。廊下に敷かれた緋毛氈の朱色と庭園の緑とのコントラス
トがとても美しい。
塀の周りには苔と草花があり目に優しい。
庫裏の入口には「媚竈」(びそう)と書かれた扁額がかかっている。
良尚法親王筆で孔子の言葉のようだ。誰に媚びをうつというのだろう。
門跡寺院の庫裏
庫裏が拝観者の入口になっている。写真撮影は禁止されているので、参考までに
他所の庫裏を載せる。
庫裏の天井の黒く煤けた梁や柱の太さは見事なものである。庫裏を公開している
寺院はあまり無いので "おくどさん" や数多くの漆塗りの什器が展示されているの
で これも見過ごさずに見ておきたい。
門跡寺院といえど、おくどさんの設えと什器の数から推測するに、ここへは天皇
も度たび訪れていたか、あるいは銀閣寺東求堂のように文化人のサロンのような
役割をしていたのではないだろうか。
順路を進むと お不動様、大玄関には狩野永徳・探幽、それに岸駒筆の襖絵や
仏像、茶道具などが次々に眼に飛び込んできて見飽きない。
大書院の葺きかえたばかりの杮葺の屋根の曲線が美しい。
書院の釘隠しや襖の引手などの意匠も桂離宮に劣らず粋である。
軒を支える柱の数は少ない上に細い。座敷から庭園を広く見渡せる造りに
なっている。
松の根元にはキリシタン灯篭がある。
小書院は改修工事(平成29年)のため拝観することは出来なかった。
曼殊院の魅力はどこにあるのだろうか
一年を通して庭園の美しさは言うに及ばず狩野派などの描いた襖絵、そして書院
の設えと数々の意匠には目を見張るものがある。京都三名席の一つ、茶室八窓軒
もまた必見である。
庭園と東の山手から望む小書院、大書院の数寄屋風書院造りの雁行形のリズム感、
流れるような杮葺の屋根の見事な曲線には誰しもが賛辞を惜しまないであろう。
残念なことに 今述べた位置から建物を見ることは適わない。絵葉書でしか知るこ
とが出来ないのである。いつか小高い山の上から杮葺の屋根を眺め、幸せな時間
を過ごしたいものである。
陰翳礼讃?
だいぶ以前のことだが、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に魅せられて京都市
内の寺々や古民家を撮り歩いたことがある。そのうちの一つが洛北にあ
る ここ曼殊院門跡だった。
秋には紅葉のきれいな所だ。
曼殊院の西にあり 曼殊院を見守っている。
延暦年間(728~806)、宗祖伝教大師最澄により、鎮護国家の道場として
比叡の地に創建されたのが曼殊院のはじまりである、という。
※だいぶ以前の訪問なので、間違っている説明があるかもしれません。