これはこの世のことならず、死出の山路のすそ野なる、
さいの河原の物語、十にも足らぬ幼な児が、さいの河原
に集まりて、峰の嵐の音すれば、父かと思ひよぢのぼり、
谷の流れをきくときは、母かと思ひはせ下り、
手足は血潮に染みながら、
川原の石をとり集め、これにて回向の塔をつむ、
一つつんでは父のため、二つつんでは母のため、
兄弟わが身と回向して、昼はひとりで遊べども、
日も入りあひのその頃に
地獄の鬼があらはれて、つみたる塔をおしくづす
……寺山修司『田園に死す』より
賽の河原を歩いていると、一人の老婆が私に近づいて来て、知らぬ名を呼んでいる。老婆の娘さんらしき婦人が後ろから慌てて「違うよ、違うよ!」と言っているのが聞えた。どうやら私のことを亡くした息子と思ったようだ。同じ年ごろの男だったのだろうか。
青森県下北半島にある恐山を訪ねたのは昭和四十年代半ば。おどろおどろしい その名に惹きつけられた。古来より 死者の魂はこの山に集うといわれている。