chikusai diary

昭和という時代に どこででも見ることができた風景を投稿しています。

新緑の半木の森をひとり行く




近ごろ永井荷風にハマっている。荷風といえば『濹東奇譚』のように、玉の井や吉原などを題材にとった小説ばかりを書いていると思っていた。ところが荷風の日記(断腸亭日乗)を読んでいると漢文調の立派な(わたしが言うのもアレだけど)文章を書いていることが分かった。

※写真をクリックしてみて








荷風の影響を受けたのだろうか、気が付いたらカメラを携えて当地方に残っている(雰囲気の話ですよ)怪しげな場所に出入りしているワタシがいた。それも連日のように。たまには疲れた頭を休めようと京都府立植物園に出かけてみた。それが今回の写真です。





















新緑愛すべし。人なき公園の樹下に坐し携えたるモーパッサンの詩集を読みて半日を過ごしぬ。夕陽のかげ、新緑の梢にようよう薄くなり行く頃あたりの木立には栗鼠の鳴き叫ぶ声 物寂しく、黄昏の空の色と浮雲の影を宿せる広き池の水には白鳥の姿 夢の如くに浮び出せり。何ら詩中の光景ぞや。余は頭髪を乱し物に倦みつかれしようなる詩人的風采をなし野草の上に臥して樹間に仏蘭西の詩集よむ時ほど幸福なる事なし。笑うものは笑え余は独り幸福なるを。





余はいかなる故とも知らず無限の寂寞と悲愁に襲はれ、独りベンチに坐して身のこし方行末のこと思いめぐらすして夜の来るをもこころ付かざりき。


※上の文は永井荷風『西遊日誌抄』より引用。芥川龍之介はこの本を荷風の傑作と語っていた。
   この日記は、『断腸亭日乗』とともに荷風の自伝とも言えるものだ。