陽のあたらない村
袰月( ほろづき )という土地の名を知ったのは、詩集『まるめろ』を
読んだことによる。
袰月へは、津軽半島最北端の駅、三厩(みんまや)から海沿いの雪道を
二時間は歩いたであろうか。集落は北に津軽海峡、道路をはさんで南側
には山肌にへばり付くように家が建ち並んでいた。高木恭造氏の方言詩
集『まるめろ』で読んだとおり日当たりは悪そうな集落であった。より
によって何故このような土地に住むことを選んだのであろうか。かつて
は蝦夷が住んでいたという記録を読んだ覚えがある。
集落の入口でお年寄りが歩いてくるのに出会った。集落を往復してもこ
の方にしか出会わず、侘びしいところという印象が強く残った。
その日の午後、三厩駅から汽車に乗り青森駅に向う車中、向いに座って
いた品の良いご婦人が「袰月で写真を撮っていた人ではないか?」と訊
ねてきた。偶然にも写真に写っている方である。青森市内に下宿してい
る高校生の息子に会いに行くのだという。地方では学校へ通うのも大変
なのだ。
撮影年:1970年代初頭