佐々里峠通い
わたしが一年を通じてよく通ったところは佐々里峠だろうか。
標高八百メートルに満たない峠で、今は舗装された道路が開通
していて積雪期でもそこを歩けば楽に登ることができる。この
道路は広河原と佐々里を結ぶ地元民念願の道路で、開通を記念
して道路わきには桜が植樹されており、五月の連休ころには桜
の花は満開を迎える。かつてはその花の下で宴を催す地元住民
の姿が見られたものだ(この道路は冬季積雪のため閉鎖される)。
春、佐々里峠で眺める緑輝く新緑の時(いっせいに葉が開く)
も良いけれど、ものの哀れを感じさせるような秋の風情も良い
し、アシウスギの枝木に雪が降積もる山水画を見るような趣の
ある冬もまた良いものだ。峠に残る里人の踏跡を見つけ木々の
様相を見て歩く楽しみ方もある。
こんな急勾配の斜面にも人の踏み跡がある。里の人がトチの実を採集に
来るのだろう。
トチノキの黄葉は逆光で見るととても美しい。ほとんどの葉を落とした
頃のトチノキも、また趣があっていいものだ。
ミズナラだろうか、風に飛ぶ木の葉に北山の風情が感じられた。
佐々里峠付近の山にはトチノキの大木が多く見られる。薪炭用の木や
北山杉を伐採することはあっても、トチノキだけは残している。田畑
の少ないこの地域ではトチノキの実は貴重な食糧でもある。