chikusai diary

昭和という時代に どこででも見ることができた風景を投稿しています。

武蔵野を ASAHI PENTAX で撮る

 

昔の武蔵野は萱原のはてなき光景を以て絶類の美を鳴らして居たように
言い伝えてあるが、今の武蔵野は林である。林は実に今の武蔵野の特色と
いっても宣い。則ち木は重に楢の類で冬は悉(ことごと)く落葉し、春は
滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野一斉に行わ
れて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑陰に紅葉に、
様々の光景を呈するその妙は一寸西国地方又た東北の者には解し兼ねるの
である。
国木田独歩著『武蔵野』より

 

 

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武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも
足の向く方へゆけば必ず其処に見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。
武蔵野の美はただその縦横に通ずる数千条の路を当もなく歩くことに由て始
めて獲られる。春、夏、秋、冬、朝、昼、夕、夜、月にも、雪にも、風にも、
霧にも、霜にも、雨にも、時雨にも、ただこの路をぶらぶら歩いて思いつき
次第に右し左すれば随所に吾等を満足さするものがある。これが実に又た、
武蔵野第一の特色だろうと自分はしみじみ感じて居る。武蔵野を除いて日本
にこの様な処が何処にあるか。
国木田独歩著『武蔵野』より



 

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昭和45年(1970)武蔵野の面影をもとめて彷徨う。
写真は平林寺境内で撮影。

独歩はツルゲーネフの影響を受けて『武蔵野』を書いたようだ。
その武蔵野は、当時独歩が住んでいた渋谷駅からそう遠くない
所を描いたというのだから、俄かに信じることは難しい。

使用カメラ:ASAHI PENTAX SL     Super Takumar 1:1.8/55 mm