ある秋の日のこと、台風が来るというので山を下りた。
登山道ですれ違う単独行の方々に少なからず違和感を覚えた。
これからどちらへ、と訊くわけにもいかず、お元気でと念仏
のように唱えるしかなかった。
不思議なことに、単独行の方は みなせかせかした歩き方なの
である。まるで後ろから台風に追いかけられているかのようだ
(実際そうなのだけれど)。
霧にまかれ、雨風にたたられるのは気持ちの良いものではない。
特に単独行の場合は。霧の中を三時間も歩いていて誰にも会わ
ずにいると、この道でよいのだろうか、と不安に駆られる。
一瞬、霧が晴れ、遠くに槍ヶ岳が見えたりするとほっとする。
そんな経験を三俣蓮華岳から双六小屋間で経験したことがある。
砂嵐を初めて経験したのも この時の山行だった。
北アルプスは紅葉の季節である。コロナ禍でテント場は大混雑
のようだ。天候によっては撤退する勇気も必要だ(以前、数人
の知人が立山で遭難し命を失った)。